IMRT

強度変調放射線治療とは?

強度変調放射線治療(Intensity Modulated Radiation Therapy: IMRT)とは、コンピューターの助けを借り、腫瘍部分のみに放射線を集中する新技術のひとつです。これにより、従来の照射方法と比較して腫瘍制御率の向上や副作用の軽減が期待されます。既に欧米では従来の照射方法に置き換わる標準治療法となりつつあり、今後日本でも広く普及する治療法と考えられます。
放射線治療では、一般的に腫瘍への放射線量を増やせば、腫瘍を小さくできる率もあるところまでは上昇します。しかし、線量を増加すると、同時に放射線による副作用も増加させてしまいます。このため現状では多くの場合には正常組織の耐用線量(長期にわたり人体に重篤な影響をきたさない線量)が線量の上限となってしまい、腫瘍部分に十分な線量を投与できないことが生じてしまいます。
放射線治療における技術面での究極的な目標は、正常組織には放射線を全く与えずに腫瘍のみに100%ダメージを与えることができるようにすることです。体内深くにある腫瘍を外部から照射する場合、放射線は必ず正常な組織を通ってから腫瘍に到達しますので、腫瘍のみに100%照射することは原理的に不可能です。近年では、放射線治療技術は急速に進歩を遂げており、周囲の正常組織を避けて腫瘍部分のみに高線量を投与する技術(いわゆるピンポイント照射)も着実に向上しています。

強度変調放射線治療の説明図

しかし、この図のように腫瘍が正常組織を取り囲むように位置している場合、従来の照射方法ではピンポイント照射の技術をいかに駆使しても、正常組織を避けて腫瘍部分に照射することは不可能でした。これは、通常の照射方法では、各ビーム内の放射線の強度が均一であるため、照射野内の線量も基本的には均一になるためです。
これに対し、強度変調放射線治療では、放射線治療装置に内蔵された多分割コリメーターを高速で動かすなどの手法により、各ビーム内の強度に変化を持たせ、凹型の線量分布を実現します。
腫瘍細胞の周囲にある正常組織への不必要な被曝が避けられています。
これは放射線の強度分布を変化させることによって照射方法の可能性(自由度)が増えたためですが、その自由度の多さによって、一方では、最適な照射計画の道筋がより複雑になってしまうというデメリットも生じます。
そこで医師が腫瘍部分に照射したい線量を設定し、さらに近くにある正常組織には線量の制限を与えて、その予定線量を実現できるようにコンピュータの力を借りて何度も計算し、放射線の最適な強弱や照射方法を導き出すようにしています。

(左図)前立腺癌のIMRT治療計画の例

前立腺癌のIMRT治療計画の例です。前立腺のすぐ近傍にある膀胱や直腸に対する不要な被曝が避けられています。
強度変調放射線治療を用いることにより、前立腺癌では直腸出血、頭頚部癌では唾液腺障害といった副作用を大幅に低下・軽減させることが可能であることが、複数の施設から報告されています。

IMRT

治療対象疾患

強度変調放射線治療は、理論上すべての疾患に対して適用可能ですが、現在の主な治療対象疾患は前立腺癌、頭頚部癌です。
これらは従来の照射法では腫瘍への高線量投与と重要組織温存の両立が困難であり、強度変調放射線治療がとくに有用とされます。

東大病院における強度変調放射線治療の現状

東大病院放射線科では2003年4月より強度変調放射線治療の実施を開始しています。IMRTの実績は、2007年に6件、2008年に33件、2009年は3月現在で14件です。2008年8月には、今後IMRTの主流となっていくことが予想される連続回転型強度変調放射線治療(Volumetric Modulated Arc Therapy; VMAT)の臨床適用を、エレクタ社とともに実現いたしました。
VMATはこれまでのIMRTに比べて短時間で治療をおこなうことができ、臓器運動の抑制や線量率効果の上昇が期待されています。
現在は前立腺癌および頭頚部がんに適応をしぼって強度変調放射線治療を提供しています。今後、徐々に適応を拡大していく予定です。