前立腺癌 (5日間)

VMATによるSBRT

前立腺癌の細胞には1回線量を増加させた寡分割照射のほうが腫瘍制御に効果的なのではないかという仮説がある。1回線量を増加させた場合、周囲の正常臓器への障害も大きくなってしまうことが一般的に知られているが、強度変調放射線治療 (intensity modulated radiation therapy: IMRT)、画像誘導放射線治療 (image-guided radiotherapy: IGRT)といった技術によって安全に1回線量を増加させることが可能となってきた。こうした技術を応用し、近年では治療回数を5回まで減少させた超寡分割照射法である体幹部定位放射線治療 (stereotactic body radiotherapy: SBRT)が用いられるようになっている。この技術で、低リスク群では95%以上、中リスク群では90%ほどの完治率が期待できる。重篤な副作用は、尿路系で2%程度、消化器系で0.5-1.0%程度と報告されている。現在では限局期の前立腺癌に対するSBRTは本邦でも保険適応(2016年4月以降)であり、通常分割照射とならび標準的な治療選択肢の一つとなっている。当科では現在、8グレイ*5回で定位照射を行っている。2020年12月時点で、5回の定位照射で根治照射を行った症例が500件を超えた。

SBRTにおける生物学的線量増加は、患者の利便性・腫瘍コントロールを改善し、コストと副作用を減らす可能性がある。コストに関しては63万円の保険負担分と通常IMRT*38-40回(約130万円)の約半分の値段となる。限局性前立腺癌に対する1日おきの全5回(1回10-15分程度)で終了するSBRTの適用は増加しており、他の放射線療法と同等以上の治療効果・有害事象の報告もあわせて今後も増加していくと思われる。

前立腺癌に対する根治的放射線治療成績

前立腺癌は欧米では男性の罹患率第1位の癌であり、日本でも食事など生活様式の欧米化に伴い、近年急速に増加しています。同時に前立腺癌は、近年の放射線治療技術の進歩の恩恵を最も受けている疾患でもあります。

前立腺癌はI-IV期に分類されますが、IV期は転移を有する状態などであり通常は根治治療の対象とはならず、I-III期が根治治療の対象となります。III期では通常手術は適応とならず、放射線治療が第1選択となります。また、I・II期においても「手術と放射線治療の治療成績は同等」というのが世界的に共通の見解です。

ただし、放射線治療で手術と同等の成績を得るには72グレイ以上を投与することが必要とされており、このような高線量投与は直腸出血など重篤な副作用をきたす頻度を高くしてしまいます。そこでIMRT(強度変調放射線治療)のような高度な放射線治療技術が必要となります。

前立腺癌では直腸を囲むように腫瘍が存在するため、通常照射法で高線量を投与した場合には直腸出血など重篤な副作用をきたす頻度が高くなります。一方で、IMRTでは凹型の高線領域を作成することにより、直腸を避けながら腫瘍へ高線量を投与することが可能です。前立腺癌に81グレイを照射した場合の直腸出血の発生率は、通常照射法では10%であるのに対し、IMRTでは2%と大幅に減少するという報告があります。